認知症をめぐる歴史

認知症の歴史 認知症トピック

認知症は、20世紀初頭から現代に至るまで、医学的・社会的に大きな関心を集めてきた疾患です。その歴史は、科学的発見と社会的認識の変化が交錯する興味深い道のりを示しています。以下、認知症に関する世界の代表的な出来事を時系列で示し、その歴史を概観します。

出来事
1906年ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーがアルツハイマー型認知症を報告
1931年脳研究に道を開く電子顕微鏡の発明
1972年有吉佐和子の小説『恍惚の人』ベストセラーに
1980年呆け老人をかかえる家族の会(現・認知症の人と家族の会)発足
1984年アミロイドβが発見される
1986年タウが発見される
1994年米国のレーガン元大統領がアルジハイマー病の診断を発表
1999年エーザイが日本でアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」を発売
2004年厚生労働省が「痴呆」の呼び方を「認知症」に変更
2013年英国で主要8力国(G8)認知症サミット開催
2017年京都で国際アルツハイマー病協会国際会議を開催

認知症研究の黎明期

認知症研究の歴史は1906年、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーによるアルツハイマー型認知症の報告から始まります。この発見は、認知症を特定の脳の病理変化と結びつけた画期的なものでした。1931年の電子顕微鏡の発明は、脳研究に新たな道を開き、認知症の病理学的理解を深める上で重要な役割を果たしました。

科学的発見と社会的認識の変化

1984年のアミロイドβの発見、1986年のタウの発見は、アルツハイマー病の病態解明に大きく貢献しました。これらの発見は、認知症の分子レベルでの理解を促進し、新たな治療法の開発への道を開きました。

社会的には、1972年に有吉佐和子の小説『恍惚の人』がベストセラーとなり、認知症に対する一般の関心が高まりました。1980年には「呆け老人をかかえる家族の会(現・認知症の人と家族の会)」が発足し、認知症の人とその家族を支援する動きが本格化しました。1994年には米国のレーガン元大統領がアルツハイマー病の診断を公表し、認知症に対する社会的認識がさらに広がりました。

治療と認識の進展

1999年、日本でアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」が発売され、認知症治療に新たな希望がもたらされました。2004年には日本の厚生労働省が「痴呆」という呼称を「認知症」に変更し、認知症に対する社会的スティグマの軽減を図りました。

国際的には、2013年に英国で主要8カ国(G8)認知症サミットが開催され、認知症対策が世界的な課題として認識されるようになりました。2017年には京都で国際アルツハイマー病協会国際会議が開催され、認知症研究と対策の国際的な連携がさらに強化されました。

最新の研究動向

近年の研究では、アルツハイマー病の早期段階にあたる軽度認知障害(MCI)の進行過程を追跡したJ-ADNI研究が注目されています。この研究により、日本人におけるMCIが認知症に進展していく過程が初めて明らかになりました。また、うつ病と認知症の関連性についても研究が進んでおり、血清アミロイドP成分(SAP)やREST(RE1-silencing transcription factor)が認知機能や脳血流の改善に関与する可能性が示唆されています。

認知症をめぐる歴史は、科学的発見と社会的認識の変化が相互に影響し合いながら進展してきました。今後も、研究の進展と社会の理解の深化が、認知症との共生社会の実現に向けて重要な役割を果たすことでしょう。2025年現在、認知症基本法の制定により、さらなる研究の推進と社会的支援の充実が期待されています。

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